『9歳の人生』
ウィ・ギチョル/著 清水由希子/訳(河出書房新社)
紹介してくれたのは… 市川市中央図書館 小室さん
〈おすすめコメント〉
ボロボロの家屋がひしめく貧民街「山の町」に引っ越してきた主人公ヨミンの視点から見える世界が、子どもらしい生き生きとした表現で描かれたこの作品。9歳になった彼の前に、ホラ吹きの同級生、洞窟ばあさん、複雑な乙女心を持つ少女、引きこもり哲学者、片腕のベトナム戦争帰還兵など、個性あふれる面々が次々と登場します。そんな人々との交流と別れを通し、彼はやがて人生とは何なのかを感じとり始めます。
笑いあり涙ありのエピソードの随所に、日々を懸命に生きる人々の姿や、心に染みる人生哲学が散りばめられており、読み進めるうちにヨミンと一緒に人生の意味を考え始めている自分にふと気付くことでしょう。
“自分のことをかわいそうだと思い込めば、誰だって不幸になれる”とヨミンは言います。
読後は、人生という名の愛と哀しみと苦難の物語の主人公として、現実の世界で胸を張って生きていこうと思わせてくれる素敵な一冊です。