第13話
また、いちじくの話を書きます。
前も書きましたが、おっかと私は、いちじくが好きです。だけど、たぶん私は、いちじくそのものを食べたことは、まだないと思います。私は、いちじくが入っているパンとか、いちじくのジャムとかを食べてきました。私が、今まで食べてきたいちじくで、一番、いちじくそのものに近かったのは、ドライいちじくなのかなと思います。
おっかが、いちじくを初めて食べたのは、パパと結婚してからだそうです。私は、おっかの影響で、いちじくを好きになりました。さっき書いた、いちじくが入っているパンは、おっかが、パン屋さんで、おいしそうと言って買ったものだし、ドライいちじくも、おっかが買ったものです。それで、なんとなく私は、おっかの、いちじくの歴が、けっこう長いものだと思っていました。だから、おっかが初めていちじくを食べたのが、大人になってからというのは、意外でした。そして、もっと意外なことに、おっかは、こどもの頃は、いちじくを、食べたいと思わなかったそうです。なぜなら、おっかは、いちじくを、くさそうと思っていたからです。
おっかがこどもの頃、いちじくは、人の家の庭に、柿の木みたいに植えられていたそうです。だけど、おっかが見てきた、いちじくの木は、人の家の、汲み取り式お手洗いのそばに植えられていたそうです。だから、おっかは、いちじくに、お手洗いのにおいがしみついていて、くさそうというイメージが強くて、食べたいと思ったことがなかったそうです。
それで、おっかが、パパと結婚してから、ふたりで行ったレストランで出された料理に、いちじくがあって、そのときに、おっかは初めて、いちじくを食べたそうです。
いちじくが、お手洗いの近くに植えられていたから、その当時に、ある日、お手洗いで、うんちのピンチになった人が、近くに実っていたいちじくを、浣腸の代わりにして使って、それで、いちじく浣腸ができたのかなと、私は思いました。だけど、それを私は、どのくらい本気で思っていたかは、忘れました。
おっかから、いちじくをくさそうと思っていた話を聞いた日の午後、私は、おっかと買いものに行きました。その帰り道で、いきなりおっかが、人の家の前で、「こういうところ!」と言いました。いちじくの木が、植えられていたところの話でした。
<ご近所さんの生活>エッセイ漫画
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武井 怜
1988年生まれ。現在、両親と猫と千葉県市川市在住。動物、お笑い、海外のコメディ、甘いもの、お相撲などが好き。コミックエッセイ『気にしすぎガール~この世のあらゆる物事に気を遣いすぎる女の日常~』(KADOKAWA)発売中。