健康寿命を延ばすために
いつまでもおいしくご飯を食べたい。誰もが持つその願いをかなえるために、今気を付けたいことを市川市歯科医師会の共田光維医師に聞いた。
「食べる」ということ
いつまでもおいしくご飯が食べられる。人生において1つの大きな幸せです。
「食べる」とは、実はすごいことなんです。
たとえば魚を口に入れる。すると唇はそれをたぐり寄せ、絶妙のタイミングで閉じる。口の中では魚が切断され、舌で奥へと運ばれ、奥歯ですり潰される。クリーム状になったところで喉に送り込まれ、飲み込まれます。このような複雑な作業の合間に舌は小骨まで発見して、唇へと引き渡すのです。
驚くべきは、これらスリリングな作業をしながら口の中を傷つけないということです。
もちろん、たまには口の中を噛んでしまったり、あるいはむせてしまったりもします。言い換えればこれは「正しい食べ方」をできなかったということです。
噛む・飲む
人は生まれてすぐ母乳やミルクを飲んで、離乳食から普通の食事へ進み、自然に「噛み方」「飲み方」を身に付けます。一度間違った方法を習得してしまうと、なかなか直すことはむずかしいです。
年をとってもいつまでもおいしくご飯が食べられるように、若いころから意識して正しい「噛み方」「飲み方」を習得しましょう。
正しい食べ方とは
「噛む」「飲む」は、筋肉を動かす運動の1つです。その反復運動により脳が学習し、より良いリズムやコンビネーションを習得していきます。
運動である以上、スポーツと同じで「フォーム」が重要。正しくないフォームで続けていくと、若いうちは若さでごまかせても、年を重ねるうちにいつかトラブルとして表面化します。その場合、意識してフォームを改善しましょう。
「正しく噛む・飲む」に必要なのは「正しい姿勢」です。
姿勢はさまざまな筋肉で作られるニュートラルポジション。姿勢が悪いと左右の肩の高さに差が出たり、骨格の一部である顎がずれたりします。「悪い姿勢」からの動き出しは、筋肉に過剰な負担をかけたり、本来動かしたい筋肉が動けなかったり。「噛む、飲む」も同じで、「正しい姿勢」で食事をしないと、筋肉は正常に機能しません。
よく問題になるのが「猫背」です。食事のときは背筋を意識すること。ただし、意識し過ぎて力いっぱいなのは良くないので、できるだけ自然な範囲で。そして椅子であれば必ず足を床につけて体を安定させましょう。小さなお子さんの場合は、床でなくてもよいので何か足がつけるようにしてあげてください。
そして「正しく噛む」。一番正しくない噛み方は、上下の唇が開いた状態でクチャクチャ噛むこと。口を閉じてしっかり噛みましょう。
噛む回数は、ある研究によると25回以上が良いとされています。「よく噛むこと」が顎の発達を促し脳への刺激に。何より食事がおいしくなります。たくさん噛むと多くの唾液が出て、咀嚼された食物と混ざることによって、食物のおいしさが引き出されるのです。
最後に「正しく飲む」。やや顎を引いて、上下の唇をしっかり閉じ、きちんと「ごっくん」と飲む。これが「正しい飲み方」です。これにより飲む筋肉が連動し、舌がきちんと機能します。飲むときは下顎を上に少し上げ、上下の唇が半開きにならないように気をつけましょう。
子どものうちから家族一緒に
「正しい姿勢で正しく噛む・飲む」は子どものうちに身に付けるに越したことはありません。できるなら乳歯列が完成する3歳くらいまでにこの習慣を指導し、小学生に入学するまでには自分の習慣となるのが理想的です。また姿勢や所作は周りの人をまねしがちなので、家族で一緒に取り組むのもいいでしょう。
実際のところ、「正しい姿勢」では、多くの大人が大なり小なり問題を抱えています。加えて運動不足、デスクワーク・家事などで悪い姿勢に固まりやすい。姿勢の問題は意図的に取り組まないと解消できないものです。
普段「使わない」「使えていない」筋肉は少しずつ減少していきます。意図的に動かしていけばまた発達していくので、あきらめずに取り組みましょう。
どの年代でも「正しい姿勢」を常に保ち、「正しく噛む・飲む」を実践し続けることは、健康長寿の近道切符です。いつまでもおいしくご飯を食べましょう。