第8話
私が、洗いものの泡を流しているときに、カタログを見ていたおっかが、「ブーツ買うの早すぎたかも。かわいいの、他にも、たくさん出てる」と言いました。
我が家のクリスマスケーキは、最近毎年、いろんな食べものが入った、光るチョコレートケーキです。一昨年も、光るチョコレートケーキ、昨年も、光るチョコレートケーキを、おっかに注文してもらっています。なぜなら、少なくとも私は、その、光るチョコレートケーキを食べると、幸せな気持ちになれるからです。だから今年も、いろんな食べものが入った、光るチョコレートケーキを注文してもらいました。
どうして私が、いきなりクリスマスケーキの話をしたかというと、私は、洗いものの泡を流す水の、「ジャー」という音で、おっかの言っていたことが、よく聞き取れなくて、「ブーツ」を「ケーキ」と聞き間違えたからです。私は、おっかが、「ケーキ買うの早すぎたかも。かわいいの、他にも、たくさん出てる」と言ったのだと思いました。だから私は、おっかは、注文してくれた、光るチョコレートケーキが載っているものとは、別のクリスマスケーキのカタログを見ているんだなと思いました。それで、そのカタログのなかで、かわいいクリスマスケーキを、たくさん発見して、「クリスマスケーキを買うの早すぎたかも」と言っているんだなと思いました。だから私は、おっかに、「クリスマス限定?」と聞きました。おっかが見ているカタログのケーキが、もし、クリスマス限定のケーキではなかったら、別の機会にも買うことができると思ったからです。だけどおっかは、実際は、ブーツの話をしていました。私が、ブーツには、クリスマス限定のものがあって当たり前かのように、まるで私も、クリスマス限定のブーツを、何足か持っていそうな人みたいに、あまりにも自然に、「クリスマス限定?」と聞いてきたので、おっかは、なにか、おかしなことが起きていると気づいたのだと思います。その後、おっかが、「さっき、『ブーツ買うの早すぎたかも』って言ったの」と言いました。だから私も、「私は、おっかが、『ケーキ買うの早すぎたかも』って言ってるのかと思った」と、笑いました。私は、「クリスマス限定?」よりも、「かわいさよりも、味だよ」と言っておきたかったなと思いました。
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武井 怜
1988年生まれ。現在、両親と猫と千葉県市川市在住。動物、お笑い、海外のコメディ、甘いもの、お相撲などが好き。コミックエッセイ『気にしすぎガール~この世のあらゆる物事に気を遣いすぎる女の日常~』(KADOKAWA)発売中。