第6話
我が家の猫、ごはちゃんには、病院で勧めてもらったサプリメントを飲ませています。だけど、ごはちゃんは、歯を食いしばって、サプリメントを飲むことを拒否します。私は、ごはちゃんが、あまりにもサプリメントを拒否するので、「サプリメントを飲んだら負けのゲーム」を楽しんでいるようにも見えます。
サプリメントは、何もしなければ、においません。普通に飲めば、味もしないと思います。だけど、サプリメントを避けるごはちゃんと、サプリメントを、ごはちゃんの口に押し込む私たちが、やり合いをしているうちに、サプリメントが破けて、中身が出てしまうことがあります。そのときのサプリメントは、生魚みたいなにおいがします。生魚くさいサプリメントが口に入ったごはちゃんは、嫌そうに、口をあぐあぐさせます。その場合は、私たちも、ごはちゃんに、サプリメントを、ちゃんとあげられたわけではないし、ごはちゃんも、サプリメントを飲まなかったわけでもないので、「サプリメントを飲んだら負けのゲーム」の、引き分けなのかなと思います。
サプリメントの後は毎回、ごはちゃんに、猫用のおかかをあげます。ごはちゃんは、猫用のおかかを、むしゃむしゃと食べます。
ごはちゃんは、サプリメントを破かずに飲み込む日もあります。そのときは、ごはちゃんの喉が、ごっくんと動くので、私たちは、ごはちゃんが、サプリメントを飲み込んだなと思います。だから、みんなで、ごはちゃんを褒めます。
それから、ごはちゃんに、猫用のおかかをあげます。ごはちゃんは、猫用のおかかを、むしゃむしゃと食べます。
だけど次の日、主にパパが、床に落ちているサプリメントを発見するときがあります。ごはちゃんは、サプリメントを飲む演技ができるみたいです。ごはちゃんは、サプリメントの後、誰もいない方に走って行くことがあります。そのとき、サプリメントは、ごはちゃんの口の中に残っているのだと思います。ごはちゃんは、誰も見ていないところで、サプリメントを吐き出した後、私たちに褒められながら、しれっと、猫用のおかかを、むしゃむしゃと食べているのだと思います。これが、「サプリメントを飲んだら負けのゲーム」の、ごはちゃんの勝ちなんだなと思います。
だけど、もちろん、ごはちゃんが、ゲームに負ける日もあります。ごはちゃんが、サプリメントを、まともに飲んでしまった日です。そんな日のごはちゃんは、しっぽを下げて、誰もいない方へ歩いて行きます。
そのあと、ごはちゃんは、猫用のおかかを、むしゃむしゃと食べます。
エッセイ漫画 <ご近所さんの生活> ほかのお話はこちら
武井 怜
1988年生まれ。現在、両親と猫と千葉県市川市在住。動物、お笑い、海外のコメディ、甘いもの、お相撲などが好き。コミックエッセイ『気にしすぎガール~この世のあらゆる物事に気を遣いすぎる女の日常~』(KADOKAWA)発売中。