第4話
市川市には、海の顔と、森の顔がある場所があるなと思います。塩浜などの方面が海の顔で、私たちが住む大町の方面が、森の顔です。私たちが住んでいる場所は、市川市と松戸市の境目で、歩いていると、松戸市に入りがちです。だから、私とおっかが、かにを見たのも松戸市なのですが、この前、おっかと、スーパーマーケットに行くために、近所を歩いていたら、森側なのに、かにを発見したのです。
私は、けっこう大きいかにだなと思いました。かわいそうに、かには、私たちが発見したときには、死んでしまっていました。たぶん、はさみが一本と、足が一本なくなっていました。私は、どうして、木や畑に囲まれた場所に、かにが来たのだろうと、推測をせずにはいられませんでした。
最初の推測は、かにを発見した場所から、少し離れた場所に、名前はあるのかもしれませんが、私にとっては「名もなき水場」があるので、かには、名もなき水場から出てきたというものでした。だけど、名もなき水場は、深く掘られた場所にあるので、かにが、名もなき水場の壁を登りきるのは、大変だと思います。それに、名もなき水場が、かにが生きていける水の質なのかどうかわかりません。
次に、おっかが推測したのは、スーパーマーケットで売られていたかにを、買った人が落としたというものでした。私は、売られていたかにが、道路に落ちただけだったら、つまらないなと思いました。その場合は、スーパーマーケットで買ったかにを、家に着く前に、パックから出した人の事情の方が、気になるなと思いました。でも、おっかは、「そんなこと、まずあり得ないけど」という感じなく話していました。今思えば、おっかは、スーパーマーケットで買ったかにを、家に着く前に、パックから出さなければならない事情を、抱えたことがあるのかもしれないなと思います。
最後の推測は、かには、どこかの飲食店から逃げてきたというものでした。そうだとしたら、他の推測のかによりも、この推測のかには、道中、命がけだったと思います。命がけ順でいうと、もともと命がない、落とされた推測がに、名もなき水場から出てきた推測がに、逃げないと食べられる、最後の推測がに、となります。だけど、名もなき水場には、さぎなども来ます。だから、名もなき水場から出てきた推測がにだって、さぎをひどく怒らせてしまって、命がけで逃げていたかもしれないなと思います。私は、横向きで逃げたことがないので、わからないですが、横向きで逃げることは、大変そうです。
かにの真相は、永遠の謎箱行きです。それにしても、かに、森側で発見したにしては、推測が、わりと浮かんだなと思いました。
森側の私たちの方面には、ヘビや、たぬきがいます。私は、たぬきには出会ったことがありません。だけど、そのへんにいるらしいです。海側にお住まいの皆さま、海の近くで、たぬきを発見したら、どんな推測をされますか?
エッセイ漫画 <ご近所さんの生活> ほかのお話はこちら
武井 怜
1988年生まれ。現在、両親と猫と千葉県市川市在住。動物、お笑い、海外のコメディ、甘いもの、お相撲などが好き。コミックエッセイ『気にしすぎガール~この世のあらゆる物事に気を遣いすぎる女の日常~』(KADOKAWA)発売中。