行徳新聞 
『ハーモニー』
伊藤 計劃／著（早川書房）
紹介してくれたのは…
市川市中央図書館 堀さん
〈おすすめコメント〉
善意から生まれた倫理的な社会は、果たして人間を幸福にできるのか？ そんなテーマを扱った作品です。
本作の世界では、WatchMeと呼ばれるナノマシーンを体内にインストールすることでほとんどの病気が克服されています。WatchMeは体内環境を見守り、異変を外部に報告するだけでなく、食事の内容など日常生活にアドバイスや警告を与え、健康でいるよう働きかけます。過去に友人と自死を選択したものの失敗した主人公トァンは、そのような世界を「真綿で首を絞めるような、優しさに息詰まる世界」と感じ、なじむことができません。やがて、医療社会の根底を揺るがすような危機が訪れ、トァンは過去の自殺で一人だけ死んだはずの友人と対峙することになります。
著者は34歳の若さで夭折しており、本作が闘病生活の合間に書かれたことを考えると、何とも言えない気持ちになります。もっと多くの作品を遺してほしかったと思わずにはいられません。
baychibainfo 
明光企画スタッフ 
