伝統の技を今に引き継ぐ江戸扇子工房「まつ井(北篠崎2)」では、暑さの影響で例年よりも早くから注文が増え始め、連日制作に追われている。
粋ですっきりとした「江戸扇子」
「江戸扇子」は元禄年間に京都から江戸に伝わったのが始まりといわれ、繊細で雅やかな「京扇子」に比べ、粋ですっきりとした印象が特長だ。
江戸の町人文化で生まれた江戸扇子は、15本の竹の骨と和紙のみで制作される。パチッと音を立ててきれいに閉じるのが特徴で、寄席などで高座扇子としても使われている。2枚の表紙に芯紙をはさんで貼り合わせて平地を作る「扇面加工」や、折り目がついた型紙で平地をはさんで折り合わせる「折り」、扇骨を通す穴を開ける「中差し」など、30以上もある制作工程を一人の職人が全て行うことで、こだわりや趣が扇子に表れるのが魅力だ。
伝統を守るかたわら大学生ともコラボレーション
同工房で江戸扇子を制作しているのは、都内でもわずかとなった職人の一人である松井宏さん。昭和50年代頃までは都内に20人以上いた職人も徐々に減少し、区内では松井さんただ一人が江戸から続く伝統を守り続けている。
伝統的な絵柄の扇子を制作する一方、新たな伝統工芸品の開発に取り組む事業「えどがわ伝統工芸産学公プロジェクト」を通じて、女子美術大学の学生たちとコラボレーションした作品も手がけている。
5月24日(金)も、工房では作業が行われていた。今年の売れ筋は「グラデーション扇子」。あおぐときに着物の袖に当たらないよう片側が短いデザインとなっているのが特徴で、閉じたときの扇面の美しい模様とグラデーションが目を引く。松井さんと、美大生の斬新なデザインアイデアから生み出された逸品だ。
日々、現代に合った柄や色を意識しているという松井さん。
「楽しく大事に使ってほしいという思いで、一本一本真心込めて制作しています。身近なSDGsの取り組みとして、多くの方に手に取っていただきたいです」と話している。
現在は、タワーホール船堀内の「アンテナショップ エドマチ」や篠崎文化プラザ内の「江戸川区名産品販売ショップ」などで店舗販売している。