~地場産業・海苔養殖業とは~
行徳を代表する産業の1つといえば海苔の養殖業だが、市川で海苔が作られていることを知らない人もいるのではないだろうか。今回は海苔養殖業について、改めて紹介する。
行徳の海苔はすべてにおいて一級品
今から200年ほど前から行われているといわれる千葉県の海苔作り。行徳では、明治42年に浦安・船橋から漁区を借りて海苔作りが始まった。戦後の昭和25年には海苔を作る漁業権(海苔養殖業)が得られ、現在に至る。
「私が高校を卒業して父と一緒に仕事を始めた40年ほど前には行徳に30軒以上の海苔養殖業者がいましたが、今は4軒になりました」と、2代目として海苔養殖業を営んでいる秋本久さんは話す。
軒数が減り、行徳での海苔の収量もかつてより減少しているが、その味はどこの産地にも負けない一級品だ。
「江戸川から流入する栄養分や穏やかな環境が、良い海苔を育んでいるのだと思います。一昨年(令和5年)の千葉県での海苔の食味品評会では、行徳の海苔が1~3位を独占しました。香り、歯切れ、口どけなど、すべてにおいて品質がいいのが行徳の海苔の特長です」と、胸を張る。
海苔養殖は自然相手に年中無休
海苔養殖の仕事は年中、休みがない。11月ころから春までは収穫し、洗浄や海苔すき、乾海苔(焼く前の海苔)などへの加工。収穫が終わると養殖に使用した網の手入れや修理をし、8月下旬ころからは柵の支柱になる杭を立て、次の収穫へ向けて網へ種付けを行う。
「近年は海水温が高いので、種付けを遅らせ、収穫開始が12月になることも増えてきました。温度は海苔の成長にとても影響を及ぼすので、気をつかうところです」
日差しや風にも注意が欠かせない。太陽が照り続けるとプランクトンが増えすぎて赤潮が発生し、沖からの南風が強く吹くと波が高くなり、せっかく育った海苔が網からちぎれてしまう。
「収穫直前に強風が吹くと、がっくりしますよ…。とはいえ、波がまったくない状態が続くと海苔の栄養源であるプランクトンが海底にとどまって成長に影響するので、それも困るんです」
加えて近年、海苔養殖で大きな課題となっているのが、クロダイによる食害だ。防除ネットを張っても、翌年にはネットの隙間から入って海苔を食べてしまうという。「クロダイのエサが無くなって海苔を食べるようになったのでしょうから、私たち人間にも責任があるのかもしれません」
網張り
陸揚げ
種付け
地元の海苔を食べよう!
自然相手だけに苦労が多い仕事だが、とても朗らかな秋本さん。理由を尋ねると「海苔が好きで、おいしい海苔をとりたいから」との答え。今は3代目の息子とともに、4代目になるかもしれない孫たちの喜ぶ顔を思い浮かべながら、良質な海苔を求めて作業が続く。
ここ数年、いちかわ三番瀬まつりや朝市で行徳の海苔の存在を知り、ファンになる市民も増えている。
「地元でとれる海苔をぜひ、食べてみてください。ほかの海苔との違いがきっと分かると思います」
私たちが暮らす行徳が誇る貴重な海苔。地場産業を守り、心を込めて作ってくれている秋本さんたちに感謝しながら、大切に味わいたい。